評価制度のあり方が、仕事の精度を左右する。

人事評価(人事考課)のメリットやその観点、実施のステップを学びます。

Introduction

人的資源管理

企業は、ヒト・モノ・カネ・情報の4つの経営資源(四大経営資源)を活用しながら活動を行いますが、4つの経営資源の中でも最も重要とされるのが「人的資源」です。すべては「ヒト」がいて初めて活用できるものであり、ヒトがモノを使い、ヒトがカネを動かし、ヒトが情報を活かすことで初めて、企業活動を行うことができます。ヒトがいなければすべての企業活動は始まらないことから、企業活動の根幹を支えているのが、この「人的資源」だと言えるのです。
人的資源の持つ多様な能力と可能性を効率的に有効活用することがマネージメント側の責任であり、人的資源を動機付けできるか否かが事業の成果を大きく左右することから、人的資源の要素である「採用・人員配置、評価(人事考課)、報酬、賃金、能力開発」などを正しく理解し、適切な管理・運用を行う必要があります。ここでは、人的資源管理のうち「評価(人事考課)」について詳しく解説していきます。

評価(人事考課)

人的資源管理は、経営資源管理の蓄積であり、目に見える形で計測し定量化する必要があります。このことからも企業は、評価(人事考課)により従業員の習熟度やモチベーション、さらには成果を正しく計測する必要があり、その結果により適切な処遇や教育を行わなければなりません。
一方、評価(人事考課)を行うのは人間であることから、日常からの人間関係による情や相性など、個人の主観の一切を除外するのは容易なことではないと言えます。こうした個人の主観による心理的誤差が生じないよう、人事考課者の意思統一や訓練を行うことが重要だと言えますが、近年では被評価者自身が参画する自己申告制度や、人事考課者以外を参加させる360度評価制度(多面評価制度)も広く採用されています。

●人事考課とは

「人事考課」とは、従業員を一定の基準で公平に査定し、公正かつ適正な処遇を行うことを目的とした仕組みのことです。会社への貢献度や職務遂行能力、業績やスキルなどの成果に対し、個人の主観による心理的誤差の生じないよう査定を行い、給料、昇格、配属・配置などの人事に反映していきます。貢献度の高い従業員には昇給や昇格など待遇を改善し、さらなるモチベーション向上を図ります。逆に、自己評価と他者評価に大きな誤差が生じるようであれば、面談などを通して課題の共有や意識改善を促します。
人事考課で重要なのは、従業員が会社に対し、不信感や不満を抱くことなく円満な関係を築くことにあり、企業の目指す方針や方向性を共有するとともに、従業員のモラル向上を促す仕組みが「人事考課」であると言えます。

人事考課のメリット

多くの企業で人事考課制度が取り入れられており、企業の成長と従業員のモチベーションアップに人事考課は不可欠だと言われていますが、人事考課を行うことの具体的なメリットにはどのような点があげられるのでしょうか。人事考課の主なメリットを以下にご紹介します。

①意識の共有ができる

人事考課の評価基準を作成し従業員に公開する事で、企業の方針や考え方、ミッションやビジョン、そして行動規範となるバリューの浸透を図ることができます。まさに、従業員に期待する行動規範を明文化したものが評価基準であり、その評価軸を実践する事が評価につながれば、自ずと目標に向かって業務を遂行できるようになります。

②生産性が向上する

従業員の貢献度、職務遂行能力、業績やスキルなどの成果に見合った昇給・昇格を公正な基準で行うことで、従業員のモチベーションは今まで以上に向上し、より高い成果に向け日常業務や能力習得に励むことができます。一人ひとりの生産性向上は、会社全体の生産性向上へとつながり、結果、大きな成果が期待できます。

③人材育成を促進する

人事考課制度では、評価基準が明確となり評価後のフィードバックも行われるため、「自身の課題」や「今後の目標」が明確になります。その課題に対し、セミナーや研修など会社や上司のサポートを受け学習したり、自主学習を行うことでいち早くスキル向上を図る事ができます。

④信頼関係が向上する

上司からの適切なフィードバックを受けることで、上司部下の信頼関係を強める事ができます。またフィードバックは、個人の成長を促す会社の姿勢でもあることから、その会社への信頼感と安心を醸成することにもつながります。また、フィードバックで従業員の努力をしっかりと認めてあげることで、さらなる信頼関係の構築を図ることもできます。

人事考課の観点

人事考課は一般的に「業績(成績)考課」、「能力考課」、「情意(態度)評価」の3軸で構成されています。3つの評価軸には特徴があり、それぞれの評価軸だけでは査定しきれない部分を補完しています。人事考課の際には、以下で解説する「業績(成績)考課」、「能力考課」、「情意(態度)評価」の3軸の評価システムを策定し、公正な評価を行うことが大切です。

①業績(成績)考課

人事考課の核となるのが、従業員がどれだけ会社に貢献したかの観点で評価を行う「業績(成績)考課」です。ジョブ型雇用では特に重要視され、目標に対しての達成率で測られます。業績(成績)考課は、成果をあげるまでのプロセスではなく、売上や会社への貢献度など数字に基づいた評価を行うのが特徴です。
一方、スキルに関係なく、担当エリアや地域により業績に影響を及ぼす可能性を秘めているため、従業員同士の不公平感を払拭するためには、その他の人事考課を用いて補填していく必要があると言えます。

②能力考課

人材育成やスキル形成を考慮した際、人事考課の観点として特に重要になるのが「能力考課」です。能力考課では、従業員が習得している知識や能力そのものを評価していきます。業績(成績)評価が成果のみを評価する人事効果に対し、能力効果は成果に至るまでのプロセスを評価していきます。同じ成果の業務があった際、より高度なスキルを必要とする案件で成果をあげた従業員を高く評価することができる仕組みです。具体的な評価項目には、知識力、判断力、交渉力、企画力、技術力、指導力などがあげられます。数字には表れづらいチーム全体のサポートやメンバーの指導、トラブル回避施策など、業務遂行に不可欠な能力を正しく評価することで、公平な人事考課を行うことができます。

③情意(態度)考課

成果に至るまでの過程における就業姿勢や勤務態度の評価軸となるのが「情意(態度)評価」です。規律性や責任性などの姿勢や、積極性や協調性などのチームワークやリーダーシップを評価することで、経験や知識の浅い若手のうち、今後の成長が特に見込まれる従業員を評価することができます。業績(成績)考課や能力考課とは異なり、従業員の内面的な性質を評価する考課であり具体的な根拠を示すのが難しい評価軸であるため、評価者の主観が大きく影響する危険性をはらんでいます。情意(態度)考課において公平な評価を行うためには、人事考課者以外を参加させる360度評価制度(多面評価制度)を取り入れるのも効果的だと言えます。

人事考課4つのステップ

公正な人事考課は、従業員と会社との信頼関係構築における最重要ファクターです。一方、不公平な人事考課制度は、信頼関係の崩壊が生じる危険性が潜んでいる制度であると言えます。だからこそ、人事考課を導入する際は、正しいステップで一つひとつ慎重かつ丁寧に制度を整えなくてはなりません。ここでは人事考課における4つのステップとそのポイントを解説していきます。

STEP_01 企業基準を策定する

人事考課において初めに行わなければならないのが企業基準の策定ですが、人事考課の基準は企業により様々です。書籍やネットで多くのモデルケースが公開されていますが、モデルケースが必ずしも自社に適している訳ではありません。大切なのは、自社の現状を踏まえ、企業独自の基準を策定することであり、自社の現状に則してはじめて、公正な人事考課(評価)と人材育成から、業績アップにつなげることができます。
人事考課は、それぞれの企業が掲げる企業理念や事業戦略に基づいた評価項目を策定し、それぞれの評価項目には基準となる重要度を定める必要があります。また、同様の評価項目であっても、従業員の階級(役職)によって評価方法が異なる点も留意する必要があります。いずれの場合であっても、評価者の主観が影響することのないよう、できる限り明確な評価基準を定めることが重要です。「評価基準・重要度・階級による評価方法の違い」の一例は次の通りです。

◉5段階評価 基準の一例
A評価/加点5:多大な功績
B評価/加点4:期待以上
C評価/加点3:期待通り(平均値)
D評価/加点2:物足りない
E評価/加点1:著しく不足

◉重要度の一例(上記加点×ウエイトで評価点を算出)
ウエイト5:企業経営に不可欠な重要項目
ウエイト4:業績向上や企業の成長に不可欠な重要項目
ウエイト3:組織運営に不可欠な評価項目
ウエイト2:平常業務に不可欠な評価項目
ウエイト1:社会人として基本的な評価項目

◉階級による評価方法の違いの一例(責任感の場合)
5等級:組織運営に責任を持ち、売上のマネージメントができている
4等級:的確な指示を行い、責任ある業務管理ができている
3等級:指示を正確に理解し、責任ある業務管理ができている
2等級:与えられた業務に責任を持ち取り組んでいる
1等級:一度関わったことに最後まで責任を持ち取り組んでいる

STEP_02 目標を設定する

評価を行う際、判断基準となるのは「目標をどれだけ達成できたか」にあります。あまりにも現実離れした目標設定や、根拠のない目標設定は、従業員の達成意欲の減退につながりますので注意が必要です。目標設定の際は、企業や部署全体の目標をふまえ上席および従業員の双方で話し合い、現実的な目標設定を行うことが大切です。その際、労せずして簡単に成し遂げられるような低い目標設定にしてはいけません。目安としては、「努力すれば達成できる可能性がある範囲」に目標設定を行うことが重要です。
目標設定の最大の目的は「従業員が取り組むべき事項を明確にし、達成度を数値化できる目標を立てること」にあります。数値化することで、目標がより具体的になり、自身の達成度が明確になるため、モチベーションアップにつながります。

STEP_03 評価を行う

評価者は、STEP_01で定めた企業基準に基づき従業員の評価を行います。ここで注意すべきポイントは、「絶対評価(※1)」で評価を行うことです。周りと比較して評価を行う「相対評価(※2)」では、被評価者の本当の評価は行えません。相性や好き嫌いなど、個人の主観や先入観をできる限り排除し、全ての従業員に対し公平な評価ができてこそ、はじめて個人と企業の成長へとつなげることができます。
人事考課では、評価者に加え、被評価者自身も自己評価を行うことが大切です。これにより、被評価者の主張と、評価者との認識のズレを確認することができ、より客観的な評価を行うことができるようになります。また、評価後のフィードバック面談で認識のズレを摺り合わせるなど、今後の成長に向けた施策を行うことができます。

※1:絶対評価とは
絶対評価とは、個人の能力について、あらかじめ定められた評価基準に則って評価する手法です。同じ組織や集団に属する他者の評価に左右されず、設定した基準や数値化された目標などに照らして評価されることで、被評価者個人を正しく評価することができます。

※2:相対評価とは
相対評価とは、集団のなかで周りと比較しながら成績や昇進を評価していく制度です。数値目標の達成度やスキルテストの成績など、公正な評価基準を用いて評価を進めるのと並行して、組織内での個人と他者を一定の基準にもとづいて比較評価することで、最終的な評価を決めていきます。

STEP_04 フィードバック面談を行う

人事考課は、評価・査定だけがゴールではありません。大切なのは、被評価者の今後の成長に向けフォローアップしていくことであり、従業員と会社の信頼関係強化を図ることに他なりません。また、人事考課も定期的に行われることから、時期の目標設定に向け、評価者である上席と、被評価者である従業員との面談によるフィードバックが不可欠となります。
面談では、従業員本人が理解・納得のできるよう、評価結果を伝えていく必要があります。その際上席は、改善点に終始するのではなく、高評価ポイントを積極的に伝え、従業員のモチベーションアップを図ります。そして、従業員本人が能動的に改善していけるよう、導くことが大切です。

人事考課で留意する人事考課エラー

人事考課は、公正な企業基準(評価基準)を定め、個人の主観が入ることなく客観的に従業員を評価しなければなりませんが、人が人を評価する以上、個人の主観をゼロにすることは容易ではありません。そうした人事考課の際に起こり得る評価の誤差を「人事考課エラー(評定誤差)」と言い、ここでは代表的な人事考課エラーを紹介していきます。人事考課エラーをあらかじめ知ることで、公正かつ適切な人事考課を心がけることも大切です。

●ハロー効果

被評価者が持つ目立った特徴の印象が残り、他の評価が引きずられること

●先入観で生じるエラー

性別や年齢、学歴や見た目など、本人のスペックによる先入観で評価してしまう

●親近感によるエラー

被評価者と個人的な付き合いがあったり、出身地や趣味などの共通点がある場合に高く評価してしまう

●厳格化傾向

どの被評価者に対しても、不当に厳しい評価をしてしまう

●寛大化傾向

どの被評価者に対しても、不当に甘い評価をしてしまう

●中心化傾向

どの被評価者に対しても、平均的な評価をしてしまう

●極端化傾向

中心化傾向とは逆に、評価に差を付けようとして極端な評価を行なってしまう

●逆算化傾向

結果ありきで、その帳尻合わせのための評価をしてしまう

●論理誤差

評価者が持つ独自の論理によって、評価をつけてしまう

●対比誤差

評価者自身と比べ、被評価者の評価を行ってしまう

●期末誤差

評価期間終盤の出来事が印象に残り、その影響が期間全体の評価に及んでしまう

●アンカリング

最初に提示された結果を、無意識に基準としてしまう

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