一貫したメッセージ訴求から、ブランド浸透を図る。

言語化された独自性をすべてのタッチポイントで統一して発信し続ける、製造業のブランディング事例を紹介します。

Introduction

中小企業におけるブランディングの必要性

作れば売れる時代と言われた高度成長期を経て、あらゆる業種・業界で熾烈な競争が繰り広げられる現代において、生き残りをかけた他社との差別化は、今や必要不可欠なものとなっています。市場には業界を牽引するリーダー企業を始め、それを追随するチャレンジャー企業が軒を連ね、多様な戦略で市場シェア獲得を図っています。

そのような状況下において中小企業は、限られた予算や人材をフル活用し、戦略的かつ効率的に顧客獲得を図らなければなりません。知名度が高く、ブランドバリューがあるリーダー企業に対し中小企業は、ゼロベースで信頼関係の構築や優位性訴求を行なっていかなければならないのです。だからこそ、戦略の根幹に他社との違いを明確に示すブランディングが不可欠だと言えます。

ブランディングは独自性の言語化からはじまる

業種・業界を問わずブランディングでは、ブランドの中核となるMVV(ミッション/ビジョン/バリュー)開発から手掛け、次いでブランドコンセプト、タグラインなどのメッセージシステムを構築していきます。なかにはVI開発(Webデザイン/パンフレット制作など)を先行したいとご要望を受けることがありますが、ブランドデザインにおいて重要なのは「何をデザインするのか」を正しく定義することにあります。そのため、ブランドの中核となるメッセージシステムの言語化から独自性(自社らしさ)を正しく定義し、定義された独自性をデザインで具現化することが大切です。

中小企業のブランディング事例

これまでパドルデザインカンパニーが手掛けてきた中小企業の企業ブランディング実績より、「鎌ケ谷巧業株式会社」様の制作事例をご紹介します。同社のブランディングプロジェクトでは、MVVをはじめとするメッセージシステムの開発に次いでVI開発(Webサイト制作、会社案内パンフレット制作、動画制作など)を行い、一貫性のある企業ブランドの具現化を図りました。そしてブランディングは、今日現在も継続して取り組み続けています。

制作事例|鎌ケ谷巧業株式会社|企業ブランディング

千葉県鎌ケ谷市に本社、新潟県新潟市に支店を構え、千葉県内3工場と新潟2工場において建築鉄骨の加工事業を手がける鎌ケ谷巧業株式会社。「巧」の技による高品質なものづくりをはじめ、最新鋭の設備を導入した工場でのオートメーション製造を行っている。また、設計から製造、建築工事まで一貫して手がけ、建築業界を支えている。その他にも、教育事業では「幼児教室コペル」、不動産事業では「保育園」や「グループホーム」などへの不動産賃貸、太陽光発電事業では「再生可能エネルギーの開発」を手がけるなど、社会に貢献する事業を幅広く展開している。

●ブランディングの経緯

創立50周年記念式典で事業関係者や従業員に配布する「周年記念誌」と、式典で上映する「周年記念動画」を制作したい。そんなご相談からプロジェクトがスタートしました。当初のご依頼は、あくまでも周年事業に伴うツール制作のご要望でしたが、周年事業は単なる通過点ではなく、企業の大切な節目。創立50周年ともなれば尚更です。そこで、次の50年に向けた決意表明となる企業ブランディングを提案。「GO NEXT50 PROJECT!」をテーマに掲げ、周年事業ブランディングプロジェクトがスタートしました。

●Webアンケートやワークショップで独自性を明確化する

企業ブランディングにあたり、はじめに着手したのが、オリエンテーションからのワークショップ。そして、トップインタビューと全社員を対象としたWebアンケート。そこから、鎌ケ谷巧業の今の姿、ありたい姿、求められている姿を抽出した結果、「揺るぎないプロフェッショナル集団であり続けたい」という同社の姿勢が見えてきました。結果はすべてレポートとしてまとめ、経営陣へのフィードバックを行います。

●企業の中核概念となるMVV開発

MVVとは、役員及び社員など、全ての社内メンバーが一丸となり果たすべき「Mission(ミッション)」、企業の存在意義や目指す未来を示す「Vision(ビジョン)」、そして持つべき価値観を言語化した「Value(バリュー)」などのメッセージシステムです。従来まで曖昧であった自社ならではの独自性を正しく言語化することから、企業ブランディングは始まります。
ご提案からブラッシュアップを重ねた結果、「巧であれ。」を企業理念に、「鉄に命を。人に夢を。」をミッション/ビジョンに掲げ、バリューはあえて設定せず、タグラインに全ての思いを集約することに決定しました。

●ミッション・ビジョン開発

●タグライン開発

MVV開発で定義した企業理念とビジョンに基づき開発したタグラインは「まっすぐ、強く。」。このタグラインが、揺るぎない企業ブランドをより強く磨き上げるブランドメッセージとして掲げられました。巧の技でものづくりに挑む「鎌ケ谷巧業株式会社」のアイデンティティが、力強く走りはじめます。

●クレド(行動指針)開発

MVV及びタグライン開発に次いでクレド(行動指針)を開発。「巧みであれ。」をさらに紐解き、「巧みとは、どのようにあるべきか」を行動指針としてまとめ、クレドカードとして全社員への配布を行いました。以降、定期的にクレドの読み合わせを行い、現場の安全第一と合わせ、企業理念の理解促進と社内浸透を図ります。

●ブランド周知に向けたブランドムービー「まっすぐ、強く。」

企業ブランディングの実施にあたり、すべての従業員に鎌ケ谷巧業ブランドを周知する必要性から、ブランドコンセプト「まっすぐ、強く。」を伝えるブランドムービーを制作しました。未来から現世に訪れた未来人が、鎌ケ谷巧業の今後の姿を朗読していく。そんなストーリーでこれからの50年を、そして将来、100周年を迎える鎌ケ谷巧業の姿を伝えていきます。

ブランドムービー2016

●企業ブランドの理解浸透に向けたブランドブック「鉄に、命を吹き込む手」

さらなる理念浸透に向け開発したブランドブックでは、「鉄に、命を吹き込む手」をテーマに、鎌ケ谷巧業の「巧」が手がける仕事を表現。コピーでは、脈々と受け継がれた鎌ケ谷巧業の仕事に対する姿勢をメッセージで伝え、ビジュアルでは、実際に同社で働く「巧の手」を撮影しビジュアル構成しました。巧の技でものづくりに同社のアイデンティティが凝縮された一冊となりました。

●企業ブランドの集大成、コーポレートサイトのリニューアル

情報のプラットフォームとなるコーポレートサイトは、ブランドアイデンティティの統一に向けトーン&マナーを統一。飾ることなく、リアルなものづくりの様々なシーンをキービジュアルに採用することで、質の高い巧の技を瞬時に伝える構成としました。

コーポレートサイト

●企業の独自性と優位性を伝える会社案内パンフレット

ブランドブックとは別に、企業姿勢や理念・方針をはじめ、ワークフロー、社屋・工場、設備、技術、そして会社概要など、事業案内をまとめた会社案内パンフレットを作成。企業の信用を担保する情報をもれなく掲載し、同社の魅力をくまなく発信していきます。

そして50周年事業へ

「GO NEXT50 PROJECT!」の集大成となる周年事業は、舞浜のホテル宴会場を貸切り、全社員とそのご家族を招待して執り行われました。フード&ドリンク、そしてドリンクサーブなどはホテル側のサービスを利用し、シナリオ構成、会場演出、進行管理を担当。オープニングでブランドムービーを放映後、30分に渡る代表挨拶を行い、50年の感謝と今後の決意表明を行いました。エンディングでは、全社員が出演するインナーブランディングムービーを放映し、周年パーティは大盛況で幕を下ろしました。

●50年の軌跡を綴る周年記念誌

1966年、たった一人の創業から始まった鎌ケ谷巧業の50年を綴った記念誌。創業当時を知る現社長、先代社長の奥様から、鎌ケ谷巧業に起こったエピソードをヒアリング。創業当時の貴重な写真を織り交ぜながら、鎌ケ谷巧業の歴史を記しました。

●インナーブランディングムービー「みんなでつくる」

50周年パーティーのエンディングを飾るインナーブランディングムービー「みんなでつくる」では、100名を超える全社員が出演し、鎌ケ谷巧業の社風をその空気感から伝えていきます。テーマに掲げた「みんなでつくる」は、一本の動画をみんなでつくることを目標に、全社員協力のもと完成した作品です。※事例紹介ではBGMなしでの公開となっています。

コミュニケーションムービー

●企業姿勢を伝えるブランドムービーをDVDに

企業ブランディングのアウター施策として制作したブランドムービー、インナーブランディング施策として企画したコミュニケーションムービーをDVDに収め、記念品として配布。鎌ヶ谷巧業の掲げる「巧」の姿勢と、全社員参加のコミュニュケーションムービーを一対として配布することで、さらなるブランド浸透を図ります。

さらなるブランド強化に向けた継続的な取り組み

ブランディングにおいて大切なのは、継続的に発信し続けること。そして、どのタッチポイントにおいてもブランド独自性が一貫してブレないことにあります。ブランディングプロジェクト開始当初より課題に挙げられていた「採用強化」も視野に入れ、さらなるブランディングに着手していきます。

●採用強化に向けた取り組み「採用ブランディング」

半屋外で溶接などを行うものづくりの現場は、夏は厳しい暑さと、冬の寒さから求職者に敬遠されがちなのが正直です。そんな環境においても、ものづくりに真摯に取り組む「巧」たちの姿勢を「まっすぐ、強く。」伝える採用ブランドの具現化に向け、コーポレートサイトとは別に採用サイトを制作。採用サイト内には「先輩社員からのメッセージ」や「職場見学」のギャラリーページを設け、ものづくりの現場やそこで働く巧たちをリアルに伝えていきます。

採用サイト

●巧たちのONとOFFをリアルに伝える採用動画

採用サイトだけでは伝えきれない社員たちのONとOFFをリアルに伝える採用動画「巧人」。6名の巧人、一人ひとりにフォーカスした採用動画で入社動機や仕事のやりがい、OFFタイムの過ごし方など、巧人の“人となり”を紹介し、求職者に社風を伝えていきます。

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●巧人にフォーカスした採用動画 第二弾「巧人2019」

2016年の採用動画「巧人」の制作から早3年。社内・求職者ともに好評を得ていた採用動画の第二弾として、新たに6名の巧人にフォーカスした採用動画を制作。前作のしっとりした雰囲気から一転、巧人たちの前向きな姿勢をロックなBGMと共に伝えるポジティブな採用動画に仕上げました。

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ブランド浸透を加速するブランドムービー

ブランドコンセプトやMVVの共有を目的として制作する動画がブランド動画(ブランドムービー)です。ブランドムービーは、ブランドへの期待を高めることでブランドイメージを醸成し、ブランド価値向上を図る効果が期待できます。同社ではブランドムービーを毎年制作・公開することで、「まっすぐ、強く。」のメッセージを社内外に継続して発信し続けています。

●ブランドムービー2016「まっすぐ、強く。」

ブランド浸透の加速に向け、制作したブランドムービー「まっすぐ、強く。」。未来から現世に訪れた未来人が、鎌ケ谷巧業の今後の姿を朗読していく。そんなストーリーでこれからの50年を、そして将来、100周年を迎える鎌ケ谷巧業の姿を伝えていきます。

ブランドムービー2016

●ブランドムービー2017「まっすぐ、強く。巧であれ。」

第一作となるブランドムービー「まっすぐ、強く。」に続き、2016年には工場を舞台にしたブランドムービー「まっすぐ、強く。巧であれ。」を制作しました。鎌ケ谷巧業を深掘りし、現場で働く営業、設計、製造へのインタビューを通して、鎌ケ谷巧業の仕事をリアルに描写することで、すべてのステークホルダーに巧たちの仕事を伝える動画に仕上げています。

ブランドムービー2017

●ブランドムービー2018「巧であれ。」

ブランディングの第2フェーズとして、シリーズ3作目となるブランドムービーを制作。継続的なブランド普及にあたり、中長期で使用できるコンテンツ制作をポイントとしました。今回の企画は、日本人にとって普遍的な表現方法の一つでもある“書”を使った構成。鉄骨職人のものづくりへの姿勢と、書道家の表現力とこだわり。プロフェッショナルたちの創作シーンを重ね合わせながら、力強いギターサウンドとダイナミックなカメラワークで、「巧」の志を演出しています。

ブランドムービー2018

●ブランドムービー2019「父はヒーロー」

誰のために、そして何のために、日々仕事に取り組むのか。本ムービーでは、鎌ケ谷巧業で働く一人の社員とその娘の生活にスポットライトを当てました。舞台は、人生の大きな節目である結婚式。本編では親が子を想う父の愛情と、素直になれなかった娘の本当の気持ちを表現。まっすぐ、強く、日々の仕事と娘に向き合い続けてきた父親の姿をリアルに描くことで、「まっすぐ、強く。巧であれ。」という同社の想いを表現しています。

ブランドムービー2019

●ブランドムービー2022「手紙」

ブランディング4年目の取り組みを継続し、企業としてのさらなる発展とインナーブランディングの強化、採用力アップを目的にしたブランドムービーを制作。ストーリーも前作の続編とし、引き続き「感動」をキーワードに企画・制作。鎌ケ谷巧業の社員と家族にフォーカスしたドラマ仕立てのムービーとしました。 前作の「私のヒーロー」篇から、十数年後の親子の姿を描いた今作。時が経ち身の回りの生活が変化する中、仕事に対する想いや家族に対する愛情は変わらずに暮らす親子の姿を描くことで、「まっすぐ、強く。巧であれ。」という鎌ケ谷巧業の想いを表現しています。

ブランドムービー2022

5年間の継続的な取り組みを経て55周年事業へ

そして迎えた55周年。世界的なパンデミックにより三密が制限され、多くの取り組みを断念せざる得ない年となりましたが、周年パーティーに代わりオンライン配信を取り入れ、同社で働く「巧人」たちのモチベーション向上を図りました。ブランドメッセージは一貫して「まっすぐ、強く。」。一人ひとりが「巧」であることを継続的に伝え続けることで、ブレない姿勢を伝え続けていきます。

●55周年事業のシンボル「周年ロゴ」

ブランディングをスタートした50周年から早5年。当初は「巧」という言葉が一人歩きしていましたが、今ではしっかりと「鎌ケ谷巧業=巧」が社内浸透したと言えます。そんな「巧」達の背中を押すように、55周年では新たな周年ロゴをシンボルに掲げ、オンラインを中心にブランド発信を行いました。

●55周年をもれなく配信する周年サイト

企画した55周年サイトでは、大きく4つのコンテンツを設けました。キービジュアルには55周年動画、メインコンテンツには50-55年のあゆみ、各拠点のフォトギャラリー、そしてキーマンインタビューです。スマホでの閲覧を意識してビジュアルを主体とした周年サイトは、デスクワークを行う総務部や営業部はもちろん、工場勤務が中心となる品質安全、管理、製造、検査の巧人たちにもしっかりと伝わるデザインに仕上げています。

55周年記念サイト

●巧人達を鼓舞する周年動画「まっすぐ、強く。」

世界的なパンデミックにより動画撮影を断念せざる得ない状況下で何が作れるか。動画のクオリティと伝えたいメッセージ。この両軸を考えた結果、従来まで撮り溜めていた巧達の映像を再編集し、今まで以上に強く芯のあるメッセージを伝えていく企画を立案しました。完成した周年動画は、55周年サイトのキービジュアルに設定し、オンラインで広く配信されました。

55周年動画

●ポスター&タペストリーで55周年を意識づける

常時目に触れることのないオンライン配信が中心となるなか、55周年を社内に意識づけるべく、ポスター&タペストリを制作。ポスターはオフィスを中心に、タペストリーは工場に掲示し、55周年の共有から周年サイトへの誘導を図りました。

●55周年ノベルティとして実用性の高い抗菌防臭Tシャツを

その他、周年グッズとして実用性の高い抗菌防臭Tシャツを制作。2種類のデザインで制作したTシャツは、巧人達のインナーウェアとして実用性のある抗菌防臭仕様としました。小さな取り組みですが、こうしたブランディングの積み重ねが企業ブランドを育んでいきます。

●その他、コミュニケーション活動も

この5年間での取り組みは、企業ブランディングだけではありません。スポーツチームのスポンサーシップによるホームゲームでのプロモーションも多く取り組んできました。4300人超を収容する船橋アリーナや55,000人を収容する東京ドームでのCM放映のほか、ノベルティグッズの無料配布などを行い、地域とのコミュニケーション活動にも力を入れています。

企業CM

ブランディング成功の要因は、一貫性と継続性にある

鎌ケ谷巧業は「真っ直ぐ、強く。巧であれ。」のブランドメッセージを一貫して社内・社外に発信し続けることで、社員の意識改革及び社外へのブランド浸透に成功しました。また、市場で浸透するブランドの大半は、ブランドの社内浸透を図り、消費者に継続的にブランド発信し続けることで市場への浸透を図り、独自のポジションを築き上げることで市場優位性を獲得しています。

これからも分かる通り、ブランディング成功の要因は「一貫性と継続性」にあると言えます。売上重視の一過性のプロモーションだけでなく、ブランドエクイティを高め、ブランドのファンを獲得し、ブランドロイヤルティを高めていくことで、市場で選ばれるブランドを育んでいくことが、中長期的に成長する強い企業づくりへとつながります。

特に経営資源の潤沢でない中小企業は、企業・商品の根本的な価値創出(ブランディング)を図ることがビジネス成功の秘訣です。