サービス品質を具現化して差別化を図る事業ブランディング。

想いの言語化からブランドコミュニケーションを一新しブランド強化を行った、介護事業のブランディング事例を紹介します。

Introduction

介護業界におけるブランディングの必要性

介護業界の抱える課題は大きく2つあります。ひとつは利用者獲得です。介護保険を適用する訪問介護、通所介護(デイサービス)、デイケア(通所リハビリテーション)などにおける利用者獲得は、自治体やケアマネージャーを介して行われるため、利用者獲得に大きな心配は要りませんが、保険外(自費)サービスに該当する介護付有料老人ホームにおいては入居者獲得に向けた他社との差別化が不可欠となるため、多くの施設でブランディングが行われています。

もうひとつの課題としてあげられるのが人材不足です。人材採用の課題は、保険利用の有無や規模の大小を問わず、介護業界の慢性的な課題となっており、業界全体で熾烈な人材獲得競争が繰り広げられており、多くの企業で採用強化に向けた採用ブランディングが行われています。

また、保険適用サービスとなる訪問介護・看護・リハビリなどは、サービスそのものでの差別化が難しく、待遇や福利厚生などでの差別化も容易ではないことから、業界大手となるリーダー企業や、準大手となりチャレンジャー企業の多くは企業ブランディングに取り組んでいます。

このことから分かる通り、商品やサービスでの差別化が難しい業種ほどブランディングが不可欠になると言えます。自社の掲げる理念や哲学、想いや考え方などを言語化すると共にブランドデザインとして具現化することで、はじめて消費者・求職者の双方に選ばれる要因を掲げることができるようになるため、介護業界におけるブランディングは、企業として生き残るための唯一無二の施策であると言っても過言ではありません。

事業ブランディングはブランドコンセプトの言語化からはじまる

業種・業界を問わず事業ブランディングは、ブランドコンセプトの策定から始まります。コンセプトは「全体を貫く、基本的な観点や考え方」を指すことから、ブランドコンセプトは、ブランド運用にとって最も重要となるブランドの共有概念であることが分かります。

ブランドコンセプトが定義されると、そのブランドコンセプトに最適なポジショニングが明確となりターゲティングが定まります。また、サービス品質、サービス料金、さらには施設デザインやブランドコミュニケーションにおけるキャッチコピーやツールデザインなどが統一されていき、ブランドイメージが確立されていきます。

このことから分かる通り、ブランドの中核となるブランドコンセプトの言語化から独自性(自社らしさ)を正しく定義し、定義された独自性をデザインすることで、はじめてブレのないブランドイメージを構築することができます。

介護事業のブランディング事例

これまでパドルデザインカンパニーが手掛けてきた介護事業のブランディング実績より、「株式会社シニアライフカンパニー/Felio」、「社会福祉法人カメリア会/カメリア桜ヶ丘」、「株式会社シンクハピネス/ LIC訪問看護リハビリステーション」「アステイジ株式会社」の4事例をご紹介します。

株式会社シニアライフカンパニー/Felioのブランディング・プロジェクトでは、ブランドコンセプト開発からブランドコミュニケーションの軸となるロゴ開発を行い、コンセプトブック、施設案内パンフレット、Webサイト、そして施設各所のサインリニューアルまで一貫して行い、新ブランドFelioをリリースしました。

社会福祉法人カメリア会/カメリア桜ヶ丘のブランディング・プロジェクトでは、ブランドコンセプト開発から企業ロゴ、施設ロゴの開発を行い、ブランドイメージを一新。並行して各フロアやホールのネーミングを行い、コンセプトブックや施設案内に展開しました。その他、サインボード、ポストカード、施設紹介動画なども制作することで、統一されたブランドイメージを構築しました。

そして、各企業・施設ともに、今日現在も継続してブランディングに取り組み続けています。

制作事例|介護付有料老人ホームFelio|ブランディング

ベイコートクラブ、グランドエクシブなど、国内最大級の会員制リゾートホテル事業を運営するリゾートトラスト株式会社のメディカル事業として介護付有料老人ホーム「Feilo」、住宅型有料老人ホーム「Resius」を運営する株式会社シニアライフカンパニー。ワンランク上の介護付老人ホームとして、東京2施設、福岡3施設の計5施設を構えています。

●ブランディングのポイント

他社との差別化を図りたい。そんなご相談を受け、東京・福岡にて4施設を運営する介護付有料老人ホーム「フェリオ」のリブランディング・プロジェクトがスタートしました。キックオフ当初、ご担当者をはじめとしたプロジェクトメンバーのみなさまより、「基本的なサービスはしっかりとやっているが大きな特徴はない」と伝えられていましたが、ヒアリングや施設見学を重ねるうちにフェリオの特徴は「徹底してご利用者の視点に立つこと」つまり「家で暮らしているようにご入居者が暮らせる介護の実施」だということが浮かび上がりました。
さらにそれは、スタッフにとっても理想の介護を追求できる環境。そこで、「我が家のようなホーム」というイメージを確立させるタグライン「家のように。家よりも。」を開発。新たなコンセプトを掲げたフェリオが今、リ・スタートします。

●ブランドコンセプト&タグライン開発

オリエンテーションからミーティングを重ね、タグライン「家のように。家よりも。」を開発。利用者のみなさまに安心して心地よくお過ごし頂けるよう、Felioが積み重ねてきたサービスポリシーをメッセージとして凝縮しました。また、タグラインを紐解くメッセージも並行して開発し、Feiloに関わるすべての人たちと共有するブランドコンセプトが完成しました。

●ロゴ開発

ブランドコンセプト「家のように。家よりも。」を具現化したロゴデザインは、ご入居者一人ひとりの個性が集まり、家を構成する様を表現。一つひとつを落ち着いた色合いとすることで、自分のリズムで生きられる穏やかな暮らしを伝えていきます。

●「ていねいな暮らし」を伝えるコンセプトブック

ご入居者が我が家で暮らすように安心して暮らすこと、当たり前の毎日が穏やかに続くことを「ていねいな暮らし」と定義。それが可能になるのがフェリオの「プロとしての介護」であることをメッセージしました。ご入居者やそのご家族にフェリオの想いを伝えるのはもちろん、インナーモチベーションの向上に寄与するツールとなることを狙いました。

●各施設の特徴をもれなくお伝えする施設案内パンフレット

コンセプトブックとは別に、機能や設備を紹介する施設案内パンフレットを制作。フェリオ4施設それぞれにあるユニークな特長を紹介するほか、ホームマネージャーへのインタビューを行い「介護について」のコラムを掲載しました。「ご入居者の視点から生まれた介護」を大切にするフェリオの姿勢を伝えていきます。

●ここにしかない暮らしを隅々までお伝えするWebサイト

フェリオの想いがサイト全体からしっかりと伝わるよう、オリジナルで開発したメッセージと写真をふんだんに使用したWebサイトを制作。ブランドコンセプトの発信はもちろん、ていねいな介護・看護体制、日々の健康をつくる食事、多彩なアクティビティなど、ここにしかないフェリオの暮らしを隅々までお伝えしていきます。

●新ブランドを掲げる各種サインボード

リブランディング・プロジェクトで新たにリニューアルされたロゴマークを、各施設のサインボードや車両ステッカーなどにも反映。隅々までフェリオブランドを統一することで、新ブランドの浸透から、コンセプトの継承を図ります。

制作事例|特別養護老人ホーム カメリア桜ヶ丘|ブランディング

社会福祉法人カメリア会は、日本最大規模で医療・介護業界を牽引する「湖山医療福祉グループ」の傘下企業。今回ブランディングを担当させて頂いた「特別養護老人ホーム カメリア桜ヶ丘」のほか、小学校跡地を活用した福祉3施設複合事業「特別養護老人ホーム カメリア」「有料老人ホーム キーストーン」「母子生活支援施設 パークサイド亀島」、産学協同事業「特別養護老人ホーム カメリア平塚」、官民一体事業「特別養護老人ホーム カメリア藤沢SST」を企画・運営するなど、業界の常識を覆す新たな試みを続々と打ち出しています。

●ブランディングのポイント

カメリア桜ヶ丘は、施設中央に位置するホールを中心に4ユニットを形成する特別養護老人ホーム。新規開設に先駆け、設計段階からブランディング計画に携わり、ブランドロゴやコンセプト開発を行いました。
カメリア桜ヶ丘最大の特長は、音楽コンサートや映画上映をはじめ、カフェ飲食やショッピングイベントなど、地域との様々なコミュニケーションが計画される吹き抜けの大ホールがあること。まるで建物内に「街」が存在しているかのような大ホールであることから、ブランドの中核に掲げることを提案。「なかまち」とネーミングしました。
「なかまち」はひとつの街。ご利用者は「老人ホームに入居する」のではなく、「なかまち」に住まう住人。だからこそスタッフは、サービス利用者としてお客様をおもてなすのではなく、あくまでも住民をサポートする役割を担います。ご利用者が毎日の暮らしを楽しむ「家」のような場所であること。そんな施設を目指し、どこにもない新しいコンセプトを掲げた「カメリア桜ヶ丘」が誕生します。

●カメリアの花を一筆で描いたロゴマーク

特別養護老人ホームをはじめ、高齢者通所サービスセンター、母子生活支援施設、児童福祉施設などの運営を行う社会福祉法人カメリア会。そうした事業運営にあたり、同社が最も大切にしている「人とのつながり」を表現した法人ロゴデザインです。ロゴのモチーフは「カメリアの花」。途切れることのない一筆書きでカメリアを描くことで、カメリア会のアイデンティティを表現しました。

●施設中央に位置する大ホールのネーミングからロゴ開発

カメリア桜ヶ丘では、設計段階から参画させて頂いたことから、施設中央に位置する大ホールを「なかまち」とネーミングし、「なかに、まちを。」のコンセプトを開発しロゴを提案。施設の中に街があるという、まったく新しいコンセプトを掲げる老人ホームとしました。
街にはどのような施設が必要なのか、どのような設備があるべきなのか、の議論を重ね、ホールに設置する街頭をはじめ、細かなインテリアの企画・デザインも提案。ハードからソフトに至るまで、トータルでプランニングを行い、唯一無二のブランド開発を行いました。

●想いを継承するコンセプトブック

ここで働くスタッフはもちろん、ご利用者、そしてそのご家族にカメリア桜ヶ丘のコンセプトを理解して頂けるよう、「なかに、まちを。」のコンセプトを伝えるコンセプトブック(パンフレット)を制作。「なかまち」がどのようにして誕生したのか、その想いや考え方を、抽象化したイラストとメッセージで表現しました。コンセプトブックの開発は、人から人へ、絶えることなくコンセプトが継承していけるよう行った、ブランドコミュニケーションプランのひとつです。

●コンセプトをインストールした施設案内パンフレット

コンセプトブックとは別冊で、設備、空間、そしてサービスを紹介する施設案内パンフレットを作成。機能紹介を目的とするパンフレットでありながら、名刺と連動する色玉を用いた表紙デザインを制作し、カメリア桜ヶ丘のコンセプトをインストール。自分の色を選べる名刺、それらが集まってカメリア桜ヶ丘の顔になる。そんな想いを施設案内パンフレットの表紙にデザインしています。

●その想いと情熱を、声と映像で伝える動画

人が集える場所。家庭でいうとリビングのような場所であり、家族がコミュニケーションを図れる場所。同時に、近所の人々がコミュニケーションを図れる場所。そんな空間をつくれないだろうか。そんな想いから、施設中央に「なかまち」という空間が誕生した。「なかまち」は中にある街。まるで街に出かけたようなワクワク感がある場所。そして、外出の容易でない方も、人と人とのコミュニケーションが図れる場所。そんなコンセプトを掲げる、まったく新しい施設「カメリア桜ヶ丘」。その想いと情熱を、施設に携わる多くの人たちの声と映像で伝えています。

施設紹介ムービー

●ここでの暮らしを発信していくポストカード

入居者のみなさまが、ご家族やご友人にお手紙を出せるよう、6枚セットのポストカードを制作。施設内や周辺環境の風景が印刷されたポストカードを入居時のプレゼントとして進呈し、ここでの暮らしを発信していきます。

●施設全体をひとつの街と捉えるサインボード

東西南北に別れるユニット名にプラスして、1Fは1丁目、2階は2丁目と設定。施設全体をひとつの街と捉え、館内に住居表示を行いました。自分たちの家であることをより感じて頂けるよう、「1丁目南3号室にお住まいの○○さん」とお呼びしていきます。

●CIに準拠したステーショナリーデザイン

名刺・封筒などのステーショナリーは、法人格であるカメリア会のCIに準拠してデザイン。東京都江東区の「特別養護老人ホーム カメリア」との関連性が伝わるよう、法人VIに統一したデザインとしています。

制作事例|LIC訪問看護リハビリステーション|ブランディング

LIC訪問看護リハビリステーションは、東京都府中市内に拠点を構える訪問看護&リハビリサービス事業者。そして、社名にあるLICの由来は“Life is Colorful”。「人はそれぞれ違う色を持って生活をしている。その生活に彩りを加え、さらに輝いてもらいたい。」そんな企業スローガンのもと、数ある同業者とは一線を画す質の高いサービス提供を目指しています。

●ブランディングのポイント

訪問看護施設の新規設立にあたり、「コミュニケーションツールの制作を相談したい」とのご相談を受け、プロジェクトがキックオフしました。オリエンテーションを通して共有いただいたLICの想いは、「訪問看護&リハビリサービスを通して、地域のみなさんが安心して暮らせる幸せにしていきたい。
一方、そのためには、まずはスタッフが幸せでなければならない。スタッフが幸せでいると、ご利用者様や周りの方々へとその幸せが広がり、街全体を笑顔と幸せでいっぱいにする。」ということ。この想い伝えるブランドコミュニケーションの開発を目指し、ブランディングに着手していきます。

●想いの凝縮したネーミングをシンボル化したロゴマーク

ネーミングの由来となったLife is Colorfulの頭文字「LIC」で構成されたロゴデザイン。文字がつながりひとつにまとまることで、人と人のつながりや、地域・社会とのつながりを表現しました。ロゴマーク、ロゴタイプ共にソリッドな形状とすることで、従来の訪問看護とはひと味違ったブランドイメージを構築しました。新しいことにチャレンジしていくLICの姿勢そのものがデザインされたロゴマークです。

●清潔感があり、見やすく美しいWebサイト

ブランディングの中心となるコーポレートサイトは、訪問看護事業を直感的に感じて頂けるよう、ピンク色ワントーンのデザインに。ホワイトスペースを十分に設けゆとりあるデザインとすることで、清潔感のある、見やすく美しいWebサイトを実現しました。また、リーフレットや名刺など、コミュニケーションツールのデザインと統一を図ることで、ブランドイメージの構築を目指します。

Webサイト

●信頼や共感から、選ばれることを目指したリーフレットデザイン

サービス紹介ツールでありながら、企業姿勢を前面に打ち出すことで、LICの価値観や目標をしっかりと伝え、信頼や共感から選ばれることを目指したリーフレットデザイン。登場するスタッフの写真をすべてモノクロームで表現したのには、主役である利用者様より前に出ないことを視覚的にメッセージする意味が込められています。

●ステーショナリーデザインも一新し、ブランドイメージの統一を図る

コミュニケーションツール各種の制作に伴い、名刺・封筒などのステーショナリー一式も統一したデザインとして制作。すべてのタッチポイントでLICらしさをデザインし、企業・事業ブランドのイメージ統一を図ります。

制作事例|アステイジ株式会社|企業ブランディング

アステイジ株式会社は、港区麻布十番に拠点を構える、訪問介護、居宅介護支援、居宅介護、保険外サービスを包括的に行う、介護専門事業者。スタッフ全員が、本当にあるべき介護の姿を目指し、おひとりお一人に真剣に向き合う、プロフェッショナル企業です。

●ブランディングのポイント

本当に必要な介護を目指し、介護のあり方を変えていく。全てを提供するのではなく、必要なサービスを、必要なときに、最高の品質で提供する。それがアステイジの目指す介護。やさしさとか、思いやりとか。響きのいい言葉で誤魔化すのではなく、小さな変化に気づき、ちょっと支える。決してやりすぎないこと。それこそが、介護サービスの本質。そんなアステイジの思いをCIに、そしてWebとコンセプトブックで。小さな介護ブランドですが、思いの詰まったブランドに仕上げていきます。

●ブランドコンセプト

●希望の光を表現したロゴマーク

ロゴマークの形は、アステイジの頭文字「A」に「人」重ね合わせることで、そこに生じる「光」を表現。お客様の明日を照らし、希望に満ちた未来の介護を目指す。そんな思いを込めたシンボルマークです。

●創業者のDNAが凝縮されたWebサイト

アステイジの理念 “必要な時に必要なサービスを最高の品質で提供”をブランドコンセプトとして掲げ、ロゴに準じたVIでWebサイトをデザイン。これからの介護サービスのあり方を明文化し、明確なメッセージを介護業界に投げかける、創業者のDNAが凝縮されたWebサイトです。

●介護への想いを伝えるコンセプトブック

サービスそのものを伝えるのではなく、「そこにある想い」を伝えること。何ができるかを伝えるのではなく、「何をするか」を伝えること。ちょっといい介護サービスを。ちょうどいい介護サービスを。そんな介護への思いを伝える、コンセプトブック(パンフレット)を作成しました。

●すべてのタッチポイントで「らしさ」を伝える

介護ブランド「アステイジ」の確立に向け、ステーショナリーも一新。Webサイト、コンセプトブックとデザイン統一された名刺・封筒を作成し、すべてのタッチポイントで「アステイジらしさ」を伝えていきます。

ブランディング成功の要因は、ブランドコンセプトの理解と実践

事業ブランディングにおいて大切なのは、ブランドを実践するすべての従業員が、ブランドコンセプトを理解・共有し実践すること。そして、その取り組みを継続することで、ブランドの市場価値を高めロイヤルティの高いファン層を形成していくことにあります。

そして、ブランディング成功の要因は「メッセージの一貫性と継続性」にあると言えます。売上重視の一過性のプロモーションだけでなく、ブランドエクイティを高め、ブランドのファンを獲得し、ブランドロイヤルティを高めていくことで、市場で選ばれるブランドを育んでいくことが、中長期的に成長する強い企業づくりへとつながります。

特に経営資源が潤沢でない中小企業は、企業・商品の根本的な価値創出(ブランディング)を図ることがビジネス成功の秘訣です。