10年先も選ばれる保育園であるために。

さらなる成長に向け社内の意思統一を図り、ブランド発信をスタートした保育園のブランディング事例を紹介します。

Introduction

学校・教育事業におけるブランディングの必要性

少子高齢化が進み、2045年には15歳未満の人口は全体の約11%、65歳以上の人口は約37%といわれる日本において、学校・教育業界では熾烈な競争が繰り広げられており、生き残りをかけた他社との差別化は、今や必要不可欠なものとなっています。

関東の大学では、慶應義塾大学、早稲田大学、上智大学などの難関私立大学をはじめ、GMARCH(学習院大学(G)、明治大学(M)、青山学院大学(A)、立教大学(R)、中央大学(C)、法政大学(H))などのブランド大学に人気が集中する一方、2023年度の「私立大学・短期大学入学志望動向」では、大学全体に占める53.3%の大学で定員割れが生じると日本私立学校振興・共済事業団が公表しています。

幼稚園・保育園においては、待機児童問題があらゆるメディアで問題視されてきましたが、2023年9月現在においては定員割れを起こす幼稚園・保育園も多く、同時に保育士不足が深刻化しています。

このように、学校・教育業界では、幼稚園・保育園から大学に至るまで、少子高齢化が多大な影響を及ぼしており、学校・教育業界も利用者に選ばれるブランドづくりが必要不可欠な取り組みとして注目されています。また、働き手となる保育士や教師不足も深刻化していることから、就業環境や福利厚生の充実した働きやすい職場づくりを行うことで、求職者からも選ばれる仕組みづくりが急務となっています。

このような状況下において事業者は、限られた予算や人材をフル活用し、戦略的かつ効率的に利用者と人材の両方を獲得していかなければなりません。特に地場産業となる保育園・幼稚園においては、地域社会での評判が利用者獲得に多大な影響を及ぼすことから、中長期的な取り組みを図ることで地域での強い信頼を獲得していくことが大切です。だからこそ、戦略の根幹に他社との違いを明確に示すブランディングが不可欠だと言えます。

ブランディングは独自性の言語化からはじまる

業種・業界を問わずブランディングでは、ブランドの中核となるMVV(ミッション/ビジョン/バリュー)開発から手掛け、次いでブランドコンセプト、タグラインなどのメッセージシステムを構築していきます。なかにはVI開発(Webサイト/パンフレット制作など)を先行したいとご要望を受けることがありますが、ブランドデザインにおいて重要なのは「何をデザインするのか」を正しく定義することにあります。そのため、ブランドの中核となるメッセージシステムの言語化から独自性(自社らしさ)を正しく定義し、定義された独自性をデザインで具現化することが大切です。

学校・教育業界のブランディング事例

これまでパドルデザインカンパニーが手掛けてきた学校・教育業界のブランディング実績より、「ゆめいろ・なないろ保育園」様の制作事例をご紹介します。同社のブランディングプロジェクトでは、保育理念をはじめとするメッセージシステムの開発に次いでVI開発(ロゴ、Webサイト制作、リーフレット制作など)を行い、一貫性のある事業ブランドの具現化を図りました。そしてブランディングは、今日現在も継続して取り組み続けています。

制作事例|ゆめいろ・なないろ保育園|事業ブランディング

神奈川県海老名市を中心に人材派遣事業や保育事業を展開する株式会社ステーション。保育事業においては、海老名市、茅ヶ崎市、大和市にて「ゆめいろ保育園」「なないろ保育園」を全6園を運営されています。子どもたちの自律性や協調性を重視した保育方針で、通常保育のほかに一時保育や保護者のニーズに合わせた保育を行っています。

●ブランディングの経緯

2009年の保育事業立ち上げから、園児も保育士も順調に集まり、事業として堅調に成長してきた、ゆめいろ・なないろ保育園。一方、事業拡大に伴い増員し続けてきた職員たちの思いが多様化するなか、「自社のあるべき姿」が散漫になっている課題も山積していることから、5年先、10年先を見据えたとき「ただ待っているだけではなく、保護者や求職者から選ばれる保育園になる必要がある」というお考えから、ブランディングに着手しました。

●Webアンケートやワークショップで思いを集約する

ブランディングにあたり、はじめに着手したのが、各園の施設長や保育士など、全職員を対象としたWebアンケート。職員がどのような想いでいるのかをレポートとして集計し、その結果を持って役員や施設長とのワークショップを実施しました。 ワークショップでは、ゆめいろ・なないろ保育園の現在の姿、将来ありたい姿、そして利用者や求職者に求められている姿などをディスカッションし、経営層から各施設長まで、それぞれの思いを伝え合うと共に、その思いを集約していきました。

●企業の中核概念となるMI開発

MI(マインド・アイデンティティ)とは、役員及び社員など、全ての社内メンバーが一丸となり果たすべき「Mission(ミッション)」、企業の存在意義や目指す未来を示す「Vision(ビジョン)」、そして持つべき価値観を言語化した「Value(バリュー)」などのメッセージシステムです。従来まで曖昧であった自社ならではの独自性を正しく言語化することから、企業ブランディングは始まります。 今回は保育園という事業の特性から「Philosophy(保育理念)」「Policy(保育方針)」「Vision(保育目標)」をMIとして開発しました。

●保育理念の開発

●保育方針の開発

●保育目標の開発

●ブランドコンセプトの開発

MI(マインド・アイデンティティ)で定義した「Philosophy(保育理念)」「Policy(保育方針)」「Vision(保育目標)」に基づき開発したブランドコンセプトは「自分の色を、みつけよう。育てる楽しさを、見つけよう。」。さらにコンセプトを補足するブランドメッセージを開発し、ブランドの想いをすべてのステークホルダーにまっすぐ伝えていきます。

●コミュニケーションメッセージの開発

MI及びブランドコンセプト開発に次いで「コミュニケーションメッセージ」を開発。「自分の色を、みつけよう。育てる楽しさを、見つけよう。」をさらに紐解き、保護者にも保育士にも届けたいメッセージとして「子育てって、大変だから、おもしろい。」を掲げました。

●ブランドのシンボルロゴ開発

ロゴ開発では、園名にある「いろ(個性)」や「多様性」「寄り添う」「のびのび」など、ゆめいろ・なないろ保育園らしさを表すキーワード探しからスタートしました。採用いただいたロゴは、子どもたちの個性を10粒の「種」で表現したもの。カラーや形状の異なる個性ある種が輪となり、ふれあいながら育っていく様を、子どもたち成長に比喩表現したデザインです。子どもたち一人ひとりに寄り添う園の姿勢を表現するために、カラーリングもやさしい色合いにしています。

●想いを届けるステーショナリー

封筒各種と名刺は、ロゴマークと必要最小限の情報だけに絞ったシンプルなデザインに。裏面には、「じぶんの色を、みつけよう。育てる楽しさを、みつけよう。」のブランドコンセプトを配し、園が大切にする想いが伝わる・届くデザインを目指しました。

●情報発信のプラットフォームWebサイト

情報発信のプラットフォームとなるWebサイトは、園の魅力が直感的に伝わるよう、大きめにレイアウトした写真を中心としたビジュアル重視のデザインとしました。大きなイベントのない日常の1日でも、子どもたちは少しずつ成長していきます。だからこそファーストビューでは、「食べる・走る・思いやる・挑む・考える」という日常の5つのシーンにフォーカスしたスライダーを用いて、子どもたちの日々の成長を表現。手書き風のイラストやマウスオーバー時の動きなど、保育園ならではのかわいらしさや遊び心もデザインをする上で大切にしています。

Webサイト

●園の魅力や特徴を凝縮したリーフレット

「保護者の気持ちに寄り添う入園案内」をテーマにデザインしたリーフレットは、最初の見開きで、子どもたちが自然の中でのびのびと遊んでいるイメージカットを背景に、園のコンセプトを紹介。中面は保育方針や保育理念、保育目標とともに、1日の流れを知ることができる構成としました。保育園選びをしている保護者に園の考え方を端的に伝え、入園後の1日をイメージできるような入園案内を目指しました。

ブランディング成功の要因は、メッセージの一貫性と継続性

ブランディングにおいて最も大切なのは、ブランドを実践するすべての従業員が、MI(マインド・アイデンティティ)を理解し実践すること。そして、その取り組みを継続することで、ブランドの市場価値を高めていくことです。

ゆめいろ・なないろ保育園では、大切にしたい想いを「Philosophy(保育理念)」「Policy(保育方針)」「Vision(保育目標)」に凝縮し、社内外に発信し続けることで、職員の意識改革から市場へのブランド浸透を目指します。

これからも分かる通り、ブランディング成功の要因は「メッセージの一貫性と継続性」にあると言えます。売上重視の一過性のプロモーションだけでなく、ブランドエクイティを高め、ブランドのファンを獲得し、ブランドロイヤルティを高めていくことで、市場で選ばれるブランドを育んでいくことが、中長期的に成長する強い企業づくりへとつながります。

特に経営資源の潤沢でない中小企業は、企業・商品の根本的な価値創出(ブランディング)を図ることがビジネス成功の秘訣です。